【肝胆膵外科】膵癌・胆道癌におけるテロメア・テロメラーゼ活性化機構の解析と集学的癌免疫遺伝子療法
1.研究の背景
テロメアは染色体末端に存在する特徴的反復配列(TTAGGG)nで,染色体の安定化および細胞分裂寿命を規定する役割を担っている.DNA複製時にはテロメアは完全に複製されず,細胞分裂とともにテロメア長は短縮する.
テロメアがある長さまで短縮すると通常の体細胞は老化に陥るが,多くのヒト癌細胞ではテロメラーゼが活性化され,テロメアを安定化させ,半永久的に分裂増殖できる.テロメラーゼはテロメア配列の鋳型となるRNA(TERC)や逆転写酵素(TERT)などのサブユニットにより構成され,なかでもTERTはテロメラーゼ活性の制御と細胞の不死化,癌化に深く関与している.
当科では1990年代からテロメア・テロメラーゼに関する研究を開始し,消化器癌や小児癌を中心としてさまざまな腫瘍において研究報告を行ってきた.
膵癌・胆道癌は浸潤・転移傾向が強く,また早期診断が困難で切除率が低いため,他の消化器癌と比較して極めて予後不良の疾患である.また化学療法としてGemcitabineやS-1などの抗癌剤投与が行われているものの,治療成績は良好とは言えない.近年,ヒト腫瘍抗原の同定により癌抗原ペプチドを利用した治療法が注目され,その中でもテロメラーゼを利用した腫瘍免疫療法やテロメラーゼを標的とした遺伝子治療は有望な治療法として期待されている.
2.これまでの研究成果
われわれは,膵液細胞診を利用した膵癌診断におけるテロメラーゼおよびTERT発現の有用性を報告した1)2).また,膵管内乳頭粘液性腫瘍の発癌過程におけるテロメア短縮およびテロメラーゼ活性化と癌化と関連について世界に先駆けて報告した3).現在は胆道癌(胆管癌,十二指腸乳頭部癌)におけるテロメラーゼおよびTERT発現の研究を行っており,癌診断や予後予測因子としての臨床応用を目指している.
3.将来への展望
膵癌・胆道癌治療における、DC cellを利用した抗テロメラーゼ免疫療法の確立および制限増殖型ウイルスベクターを利用したテロメラーゼ標的遺伝子治療の開発を目的とし,腫瘍関連ペプチド誘導DC cellおよびテロメラーゼ標的殺腫瘍ウイルスによる腫瘍特異的増殖抑制効果について検証し,化学療法の併用を含めて集学的癌免疫遺伝子療法への応用を目指している.