重症心身障碍の患児に対する手術
重症心身障碍児(略して重心児)は、児童福祉法43条の4で、「重度の知的障害および重度の肢体不自由が重複している児童」とされています。
ひとくくりに重心児といわれますが、実際には知的障害と肢体不自由の程度は児によって様々です。
重心児では、不自由の程度によって身体的にトラブルを抱えることがあり、様々な手術を必要とすることがあります。
小児外科で扱う主な手術として
- 呼吸困難に対する気管切開術
- 嚥下機能障害からの誤嚥性肺炎に対する喉頭気管分離術
- 嚥下困難に対する胃瘻造設術
- 胃食道逆流症や食道裂孔ヘルニアに対する噴門形成術
があります。
1.気管切開手術
主に、人工呼吸管理から離脱できないお子さんや、突然の呼吸困難を来たしてしまうお子さんに適応になります。(比較的小さなお子さんが対象です)
首を小さく切開し、直接気管へとチューブを入れる手術です。
術後2週間程度すると穴が安定するので、チューブの入れ替えができるようになります。
「呼吸をするためのチューブを入れておく穴を作る手術」なので、穴は比較的小さく、もしチューブが自然に抜けてしまうと穴が塞がって窒息してしまう危険があります。
また、気管はつながったままなので、発声機能が失われないという利点はありますが、誤嚥による唾液などの流れ込みを防ぐことはできません。
人工呼吸から離脱できない赤ちゃんへの気管切開手術 |
2.喉頭気管分離手術
気管切開と同じように首に穴をあけてチューブを入れる手術であるため、同じような手術であると思われる方もいらっしゃいますが、目的も効果も全く異なる手術です。
通常人間は年を取ると嚥下機能が低下してきて、よくむせるようになります。
これは、特にさらさらした液体が嚥下の際に食道ではなく気管に入ってしまうためです。これを誤嚥といいます。
重心児では、タイミングは様々ですがこの嚥下機能の低下が早くから起こってきます。
食べたものや唾液を誤嚥してしまうため、苦しそうな息をしたり、次第に肺炎を何度も繰り返したりするようになります。
喉頭気管分離はこのようなお子さんに対して、誤嚥をなくすことで肺を守り本人を楽にさせてあげることを目的とした手術です。
手術では、気管を完全に離断し、気管の上は閉鎖して、気管の下の部分を首にあけた穴につなげます。こうすることで、口からの唾液や食物は食道にだけ流れ、呼吸は首の穴からだけ行うようになります。つまり、流れを分離させる手術になります。
この手術では発声機能が失われてしまいますが、誤嚥を完全に防ぐことから、これまで誤嚥を繰り返してきた児は劇的に楽になり表情が柔らかになることがあります。
自宅で頻回の吸引管理を続けていた介護者の負担も、ぐっと楽になることが多いようです。
気管切開術、喉頭気管分離手術はともに気管にチューブを留置する手術であるため、チューブの接触反応による気管への肉芽の形成や、場合によっては腕頭動脈気管瘻といって、血管と気管に穴が開いてしまう危険な合併症を起こすこともあると報告されているため、注意が必要です。
3.胃瘻造設術
胃瘻とは、お腹に穴をあけて直接胃へと注入できるようにする方法です。 自分で十分な量の食事や水分を摂取できないお子さんが対象になります。 |
嚥下障害で食事や水分が十分に摂取できない場合、まずは経鼻胃管といって、お鼻から胃までチューブを入れて栄養剤や水分を注入します。
しかし、チューブを入れるのは児によっては難しいこともあり、気管に誤挿入して危険な合併症を引き起こすこともあります。また、チューブが喉を通っていること自体が誤嚥の危険性を増してしまうという問題や、長期間のチューブ栄養では栄養に偏りが生じてしまうという問題があります。
鼻から挿入できるチューブは細いため、経口摂取が十分でないお子さんの栄養はどうしても「半消化体栄養剤」と呼ばれる液体状の製剤になります。最近ではかなり改善されてきましたが、人工の栄養剤だけでは足りない微量元素があること、半消化体栄養剤だけの投与は消化管機能にとってはあまり良くないことなど、問題が指摘されています。
胃腸などの消化管機能に特に問題のない重心児の場合は、理想的な栄養は普通の食事をミキサーなどでつぶして投与すること(ミキサー食)なのですが、これは細いチューブから投与するのは不可能です。
そこで、胃瘻を作って食事や水分を注入してあげることで、患児にとってよりよい栄養を与えることができるようになるのです。
胃瘻から注入すると、口から食べる喜びがなくなってしまうのでは?と心配される保護者の方もいらっしゃいます。
胃瘻を作ったとしても、口から食べられなくなるわけではありません。
また、胃瘻から注入した栄養剤や食事であっても、げっぷのように鼻腔へと空気が通ると香りを感じることがあるため、児によっては好みを訴えることもあるようです。
4.噴門形成術
重心児では、筋緊張の強さや食道裂孔ヘルニアなどの形の異常から、胃食道逆流症を発症することがあります。
食道裂孔ヘルニア |
胃の中のものが食道から口へと逆流するため、嘔吐をおこして誤嚥性肺炎の危険性があるだけでなく、重症では不整脈や呼吸障害、栄養が十分に取れないため衰弱するという合併症を起こします。
胃から食道への造影剤の逆流 |
逆流の程度を24時間モニターを食道に留置して計測し(24時間PHモニター)、逆流の程度が強い場合には逆流を防止する手術を行います。
最近では腹腔鏡下の噴門形成術を行うことが多く、比較的良好な結果が得られています。