【胆道の病気】胆石とは?
1.胆石ってなんですか?
肝臓では、脂肪やたんぱく質などの消化を促す「胆汁」という消化液がつくられています。胆汁は肝臓から送り出されて、胆管という管を通り、胆のうにいったん蓄えられて濃縮されます。
食事を摂ると胆のうは収縮して、胆汁を胆管から十二指腸に送り出し、十二指腸~小腸で食事と混ざることで脂質やビタミンの吸収を助けます。この胆汁の成分が、胆汁が通る道(胆のうと胆管)で、何らかの原因で固まってしまったものが胆石です。
2.どんな人が胆石症になりやすいの?原因は?
近年、胆石症の患者さんが増えており、日本人の成人の約8%が胆石をもっているといわれています。
胆石の方が増えた理由として、主に2つの原因が考えられています。1つは、食生活が欧米化したためで、脂肪の摂取量が増えて、胆石ができやすくなったことです。もう1つは、医療の診断技術が進歩して、無症状の胆石や、小さな胆石も発見できるようになったことです。
胆石をもっている人は、中年以降に多く、女性は男性より2倍多いといわれています。胆石症は40歳代の肥満の女性に多いともいわれています。肥満や過食、不規則な食生活、ストレスなどの生活習慣が影響しているといわれています。
3.胆石は治療が必要?
胆石が原因で、急性炎症、腹痛をはじめとする症状が1度でもあった人は、治療をお勧めします。検診などで胆石症を指摘される方は多いと思いますが、症状がない場合は経過を見ていただいて結構です。
胆石が原因で、急性胆管炎、急性胆嚢炎を発症することがあります。急性期に適切な対処が必要で、特に重症感 染症の場合には、急性期に適切な診療 が行われないと死亡に至ることもあります。
胆石が原因で慢性炎症を起こし、腹痛や消化不良などの症状を起こすことがあります(慢性胆嚢炎)。その他、慢性胆嚢炎、特に陶磁器様胆嚢炎といわれるように悪性腫瘍との鑑別が難しい場合もあります。
胆石症、胆嚢炎は、よくある病気ですが、胆嚢に異常を認めた場合は、一度、専門医を受診していただくことをお勧めします。
【 治療が必要な胆石 】
- 急性胆嚢炎や胆石発作を起こしたことがある人
- 慢性胆嚢炎、特に「陶磁器様胆嚢」といわれるように悪性腫瘍との鑑別が難しい場合
- 総胆管結石といわれたことがある人
特に、総胆管結石が原因で膵炎・胆管炎を起こしたことがある人(胆石性膵炎など)
- 肝内結石症
- 胆石が原因と考えられる症状を認める人
4.どんな症状がおこるの?
急性胆嚢炎の典型的な症状は、上腹部痛(右季肋部痛、心窩部痛)、吐き気・嘔吐、発熱です。腹痛は、特に右の上腹部に認められ、最も典型的な症状です。胆嚢内にできた胆石が原因でおきる胆石発作の痛みは、強い痛みのことが多いです。
5.胆石の種類はどういうものがありますか?
胆石は胆汁が固まってできるものですから、胆のうだけでなく、胆汁が流れる管(胆管)にもできます。大きく分け、以下の3つの部位にできます。
1)胆のう結石
胆のうの中にできる結石で、胆石のなかで最も多いものです。その大部分はコレステロール結石です。
胆のう結石の場合、胆のうが収縮するときに胆石が移動して、胆のうの出口に胆石が詰まると、激しい腹痛が起こることがあります。これを「胆石発作」と呼びます。
痛みかたの特徴は、右上腹部やみぞおちに、非常に激しい痛みが1-2時間続いた後に消えていきます。特に、油っこいものを食べた後には、胆汁を分泌するために胆のうが収縮し、胆石発作が起こりやすくなります。
胆のうの出口に胆石が詰まった状態が長く続くと、胆のうに細菌感染が起こり、「急性胆のう炎」となり、発熱・腹痛・黄疸を伴うことがあります。
2)総胆管結石
胆管にできる結石のうち、胆のうから続く胆のう管と、肝臓から続く肝管が合流した総胆管にできた結石です。これらの多くは胆のう内にできた胆石が、総胆管に流れ落ちたものが大部分です。
症状が出やすいのは総胆管結石です。総胆管から十二指腸への出口に結石が詰まると、上腹部に激痛を感じます。黄疸(皮膚や白眼が黄染すること)や発熱を伴うこと(これを「胆管炎」と呼びます)もしばしばあります。
時には「膵炎」の原因になることもあります。
総胆管結石は、胆管の閉塞を来し、急性胆管炎の原因となったり、さらには、膵管を閉塞し急性膵炎を起こす可能性があり、総胆管結石と診断された場合は、治療の対象となります。
3)肝内結石
胆管にできる結石のうち、肝臓内部の胆管にできた結石です。胆石のなかでは、少数ですが、日本を含めアジアに多い疾患です。肝内結石の場合、胆石があっても必ずしも症状があるわけではありません。
肝内結石症は、長期的には、胆道癌の発生リスクであることが報告されていますので、肝内結石と診断された場合は、専門医に診ていただくことをお勧めします。
胆石のできる場所と名称
赤矢印=胆のう結石症、黄色矢印=総胆管結石、青矢印=肝内結石
6.胆石の成分は?
胆石は、主に胆汁中のどの成分が固まっているかによって、次の4種類に大きく分けられます。胆石の種類によって、大きさや個数の傾向は様々であり、それぞれに特徴があります。
1)コレステロール系結石
「コレステロール」が主成分です。胆汁にはコレステロールが溶け込んでいますが、コレステロールが増えすぎると溶けきれずに結晶となり、徐々に固まりとなっていきます。
a. 純コレステロール石
石を割ると放射状のコレステロール結晶が見られる胆石です。通常、胆のうの中に1個です。
b.混成石
石を割ると、放射状構造と層構造が混在する結石です。複数個のことが多いです。
c.混合石
主成分はコレステロールですが、それに胆汁の色素である「ビリルビン」や石灰が混ざって固まったものです。
2)胆汁色素(ビリルビン)系結石
a.ビリルビン石灰(カルシウム)石
ビリルビンと石灰が主成分です。胆汁の流れが悪くなって、ビリルビンと石灰などが沈殿してできた結石です。
b. 黒色石
ビリルビンとたんぱく質が主成分です。見た目が真っ黒で、無無構造です。小さいものが多く、数個~数十個といった多数のことが多いのが特徴です。
これらのうちコレステロールを主成分とする、コレステロール結石と混合石が、胆石全体の約8割を占めており、この比率は年々高くなっています。
7.どんな検査をするの?
胆石の疑いがあると、次のような検査が行われます。
・腹部超音波検査
胆石に対して最も一般的な検査法で、画面に胆のうを映し出して、胆石の有無や大きさを調べます。胆のう結石のほぼ100%、総胆管結石でも約9割は見つかるといわれています。ゼリーをつけた器具を腹部に当てるだけなので、身体的な苦痛や影響もありません。
腹部超音波検査
胆のう内に7mm大の高エコー病変(=胆石)を3個認めます(白矢印)。胆石の特徴は、画面の向かって下側に黒い影があること(acoustic shadow)です(青矢印)。この患者さんでは胆嚢炎も認めていたため、膿がありました(黄色矢印)。
・血液検査
炎症や黄疸が起きているかどうかがわかります。超音波検査では、胆のう結石以外の胆石を確実には見つけることができないので、血液検査も併せて行われます。
・腹部造影CT検査
レントゲンで体の断面画像を見る検査です。造影剤を併用し、胆のうの大きさや総胆管の太さ、炎症の状況、周りの血管構造などを詳しく調べるときに行われます。
腹部造影CT検査
左:胆のうの中に淡く白い胆石を数個認めています(白矢印)。
右:同じく、胆のうの中に白い胆石を数個認めています(白矢印)。この患者さんの場合、胆のうは腫大し、胆のう壁の不整・壁肥厚を認め、胆石が原因で急性胆嚢炎になっていました。
・MRI/MRCP(MR胆管膵管撮影)検査
造影剤を使用せずに、膵管や胆管を特に強調して描出することが可能で、総胆管の構造と状態、総胆管結石の有無を詳しく調べるときに行われます。また、多方向、様々な厚さの画像情報が得られ、手術の際の解剖の理解に非常に役立つ検査です。
MRI/MRCP(MR胆管膵管撮影)検査
MRCP検査では、造影剤を投与しなくても胆道の評価が可能です。胆のうとその周囲の胆管などの構造が明瞭に分かります。手術前にはこういった構造の把握は大変重要になります。
8.治療は?
胆石発作をおこす場合や、急性胆のう炎をおこした場合、総胆管結石と診断された場合などは治療をお勧めします。胆石が見つかっても、症状がなければ、経過を観察します。
【 胆嚢結石症に対する治療 】
1.抗菌薬投与
2.外科治療(手術) 胆嚢摘出術
3.内科的な治療法 胆嚢ドレナージ術
【 総胆管結石に対する治療 】
1.内科治療の後、手術 内視鏡的総胆管結石砕石術 → 胆嚢摘出術
2.外科手術による総胆管結石砕石術
【 胆嚢結石症に対する治療 】胆のう摘出手術
全身麻酔で胆のうを体外に取り出す手術です。
「腹腔鏡(お腹の中に入れるカメラ機器)」を使って胆のうを摘出する方法が最もよく行われています。
急性胆のう炎の治療については、早期の外科治療をお勧めします。
以前は、抗菌薬やドレナージで一旦炎症を落ち着かせた後に、手術を行っていました。現在は、発症から出来るだけ早期の段階で手術をする方が、手術も容易で患者さんへの負担も少なく、早く退院できるということがわかってきました。
胆のうを取ってしまった後の生活に不安を感じる患者さんもいます。しかし、胆のうを摘出しても、肝臓や胆管が胆のうの代役を果たすようになるため、日本人の食生活では、生活にほぼ支障は出ないことがわかっています。
1)腹腔鏡下胆のう摘出術
腹部に5-10mm程度の小さな孔を4ヶ所開け、専用の腹腔鏡(カメラ)と手術器具を入れて、腹腔鏡のモニターを見ながら、腹腔内で胆のうを切り離し、体外に取り出す方法です。
開腹しないので、患者さんの身体的負担が少ないのが利点です。術後の痛みも少なく、手術跡も小さくてすむことから、胆のう結石の治療として最も広く行われています。
手術翌日から歩行や軽い食事ができて、入院期間は3~5日程度で、以前の開腹手術に比べて短期間ですみます。
当科での腹腔鏡下胆のう摘出術
臍部に12mmのポート(カメラ挿入部)、心窩部・上腹部、右側腹部に5mmポートを挿入して手術を行います(4ポート)。
実際の傷口は病状により多少場所が異なります場合があります。腹腔内部の炎症の程度によっては、手術中にドレーンと呼ばれるドレナージチューブを留置する場合もあります。
2)開腹胆のう摘出手術
開腹して胆のうを取り出す方法です。胆のうの炎症が強いときや、腹膜炎を起こしているときに行われます。また、以前に開腹手術を受けたことがある患者さんの場合、腹腔内の臓器が癒着していることがあり、開腹手術になることがあります。
入院期間は腹腔鏡手術とほぼ同様か、数日長い場合があります。
当科での開腹胆のう摘出術
多くは実線の傷口ですが、病状により点線の場合もあります(赤線)。お腹に炎症があった場合は手術でドレーンと呼ばれるチューブを留置します(青線)。
【 総胆管結石に対する治療 】内視鏡的総胆管結石砕石術
内視鏡治療による「内視鏡的乳頭拡張術」「内視鏡的乳頭切開術」「内視鏡的総胆管結石採石術」などがあります。これは口から内視鏡を十二指腸に入れて、総胆管から胆石を取り出す方法です。入院期間は1週間程度です。
内視鏡的総胆管結石採石術
左:総胆管の下部に、透瞭像(黒い影)を認め、これが総胆管結石です(白矢印)。
右:十二指腸から総胆管へ管を入れ、そこで風船(バルーン)を膨らませた上で(白矢印)、十二指腸へ総胆管結石をかき出します。
【 胆嚢結石症に対する治療 】経皮経肝的胆のう穿刺吸引/胆のうドレナージ
急性胆のう炎になった時の治療法です。
急性胆のう炎の治療は、原則的には早期の外科手術を行う方針ですが、黄疸を認める場合や全身状態が悪い場合など、状況によっては、一時的に胆道ドレナージを行います。
体表から超音波検査を併用しながら胆のうに針を刺します。「胆嚢穿刺吸引」の処置は胆のうに溜まった膿を一時的に体外に出します。「胆のうドレナージ」処置は胆のうに管を入れて持続的に胆のうに溜まった膿を体外に出し続ける治療法で、全身状態の改善を待って、外科手術で胆のうを摘出します。
経皮経肝的胆のうドレナージ
左:超音波で、急性胆嚢炎に陥った胆のう(白矢印)をめがけて肝臓経由で針を刺します(緑矢印が針の穿刺ルート)。
右:胆のうにチューブが入った所です(白矢印)。
9.予防法はあるの?
胆嚢結石の発生を予防する方法は、残念ながらありません。しかし、胆石の発生リスクを下げる手立てはあります。
栄養バランスのとれた食事を規則正しくとりましょう。胆石の大部分を占めるコレステロール系結石は、胆汁中のコレステロールが結晶になって、固まったものなので脂質の多い食生活には注意が必要です。油っこいものやアルコールはコレステロールを増やすので、できるだけ控えるようにしましょう。特に、胆石をもっている人は、胆石発作を誘発するので注意が必要です。
脱水も胆石の発生リスクになります。水分摂取を行うことも重要です。
肥満や過食をさけて、規則正しい食事を心がけましょう。
10.当科での胆石症治療実績
胆石症・急性胆嚢炎に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術をはじめとする胆嚢良性疾患に対する外科治療は、年間40~50件行っています。第一外科 肝胆膵外科グループにおいては、消化器手術の中でも、特に胆道外科をはじめ、膵外科、肝臓外科治療をメインテーマとして取り組んでいます。
広島大学病院は、日本肝胆膵外科学会 高度技能専門医修練施設(A) 認定施設で、広島県下に5つある修練施設(A)の1施設で、広島県下の肝胆膵外科の中心的役割を担っています。
肝胆膵外科領域の診療では、消化器外科領域の中でも特に専門的な知識が要求され、また、手術自体の難易度が高く、高度な技術が要求されます。
第一外科 肝胆膵グループには、日本肝胆膵外科学会指導医・専門医4名のスタッフが在籍しており、診療にあたっております。
最後に
胆石が原因で起こる病気には様々なものがあり、薬物治療やチューブ処置による内科的な治療から、胆のう摘出手術を代表とした外科的な治療まで、多岐に渡ります。
当院では内科・外科の専門医スタッフの連携が非常に密で、患者さんの病状に応じた早期の適切な治療を行うことを常に心がけています。胆石でお困りのことがあれば、お気軽に受診をお勧めします。