【肝胆膵外科】膵癌を対象としたcirculating cell-free DNAの研究
1.研究の背景
膵癌は、浸潤・転移傾向が強く、ヒト固形癌の中でも極めて予後不良な難治癌である。膵癌の予後を改善するためには、できるだけ早期に診断し的確な治療を行うことが重要であるが、いまだ有効なスクリーニング方法が確立されていない。現在のところ、膵癌の診断用マーカーとして、癌胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen, CEA)や糖鎖抗原(carbohydrate antigen 19-9, CA19-9)などの血清腫瘍マーカーが普及しているが、早期診断・予後予測には不十分で、新規バイオマーカーの開発が望まれている。
2.研究方法
当教室では、高感度かつ絶対定量が可能なデジタルPCRを使用して、従来の方法では不可能であった極微量サンプルからの核酸定量を行っている。
膵癌患者において、癌遺伝子であるKRAS遺伝子の点突然変異が、他の固形癌と比べて突出的に高率に検出される(75-100%)ことに着目し1)、膵癌患者の血漿中からのKRAS遺伝子変異(circulating cell-free DNA)の定量を試みた。
図1
当教室で使用しているBIORAD QX-100 droplet
digital PCRシステム
3.結果
25症例の膵癌術前患者から採取した血液のうち、11症例(44%)にKRAS遺伝子変異の検出に成功した。最大で200コピー/ml以上のKRAS遺伝子変異が定量され、KRAS遺伝子変異のコピー数が多いほど、予後は不良な結果となった。
図2
赤い円形点線に囲まれた部分が定量されたKRAS遺伝子を表している。左の健常人からのサンプルはKRAS
遺伝子変異を認めず、右の膵癌患者からはKRAS遺伝子変異を認めた。(青点)
4.将来への展望
Circulating cell-free DNAは非侵襲的なバイオマーカーとしてさまざまな固型癌に対して研究されている。2.3)当教室においては膵癌患者に対する早期診断、予後予測、化学療法の効果判定などを含めた高感度、高精度バイオマーカーとしての応用を目指している。
5.文献
1. Comparative analysis of K-ras point mutation, telomerase activity, and p53 overexpression in pancreatic tumours.
Uemura K, Hiyama E, Murakami Y, Oncol Rep. 2003 Mar-Apr;10(2):277-83.
2. Multi-purpose utility of circulating plasma DNA testing in patients with advanced cancers.
Perkins G, Yap TA, Pope L, PLoS One. 2012;7(11):e47020.
3. The dynamic range of circulating tumor DNA in metastatic breast cancer.
Heidary M, Auer M, Ulz P, Breast Cancer Res. 2014 Aug 9;16(4):421.