【大腸肛門外科】クローン病
1. はじめに クローン病とは?
クローン病は、消化管の慢性的な炎症を来す病気で、潰瘍性大腸炎と同様な炎症性腸疾患で、その原因にいてははっきりと分かっていません。
日本における炎症性腸疾患の患者さんの数は、毎年増加しており、2009年度のクローン病、潰瘍性大腸炎の患者さんの数は,それぞれ3.2万人、12.1万人が登録されています。
クローン病は、口腔から肛門までの消化管のどの部位にも発生します。特に、小腸・大腸(特に回盲部といわれる大腸の始まりの部分)、肛門周囲に好発します。
若年で発症し,腹痛,下痢,血便,発熱,肛門周囲症状,体重減少などを繰り返しながら、慢性に症状が持続するために、患者さんん日常生活は制限されることが多いのが問題です。また、関節、皮膚、眼などの腸管以外の場所にも、合併症をきたすことがあります。 潰瘍性大腸炎と共に炎症性腸疾患(IBD)と総称されますが、共通点や類似点はありますが、それぞれ独立した疾患と考えられています。
クローン病への治療は、疾患感受性遺伝子の検索、腸内細菌叢の解析と病態への影響、抗TNFα抗体など新しい治療薬の登場など、内科的治療は確実に進歩しているものの、およそ80%の患者さんが手術治療を要するとされています。
腹部手術の適応として、最も多いのが、腸管の狭窄(繰り返す炎症で硬く狭くなり通過に支障をきたす)です。ろう孔(炎症が波及し隣り合う臓器や皮膚にトンネルをつくる)や潰瘍からの繰り返す出血なども外科治療の対象となります。また、重症の腹膜炎や大出血の場合では緊急手術を要することがあります。痔ろうに対する手術が多いのもクローン病の特徴です。
当科でのクローン病に対する、手術症例数も、年々増加しています。年間40~60例の患者さんが外科治療を受けられ、腹部手術がおよそ7割を占めています.
2.クローン病の症状は?
クローン病に特徴的な症状として、繰り返す、腹痛,下痢が最も多く、診断時には7~8割の方に認める症状です。その他、難治性の痔瘻などの肛門病変による症状や血便もよくみられる症状です。その他、体重減少、発熱、全身倦怠感、食思不振などの全身症状や口内炎などの症状もよく見られる症状です。
若年者で慢性の腹痛、下痢が続く場合には、クローン病を考えます。加えて、体重減少や発熱を伴う場合は可能性が更に高まります。
このような症状が認めれれる場合、また、クローン病の可能性を疑われた場合には、診断、治療には専門的な治療が必要ですので、クローン病の詳しい医師の診察を受け頂くことをお勧めいたします。
3.クローン病はどのように診断されますか?
クローン病に特徴的な症状が認められる場合、肛門病変などの診察からクローン病が疑われる場合、下部消化管内視鏡(大腸ファイバー)や注腸X線造影(大腸バリウム検査)などの消化管検査を受けていただきます。
病変の進行の程度を評価するために、小腸X線造影検査や上部消化管内視鏡検査も併せて受けていただきます。
下部消化管内視鏡検査(大腸ファイバー)で,非連続的または区域性に広がる病変や潰瘍(敷石状、縦走といわれる潰瘍)、腸の狭窄・瘻孔などを認めた場合、クローン病の可能性が高いといえます。場合によっては、大腸ファイバーの際に、炎症の部位の組織を一部採取し、病理組織検査を行います。クローン病では、粘膜から腸管の漿膜(外側)まで全層にわたり炎症を認め、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を言われる特徴的な所見を認めます。
その他、腹部造影CT検査、超音波検査にて、全身の精密検査を行います。腸管の腫れやその周囲の炎症の程度を評価することが可能です。また、 腸管の一部が破れて膿瘍といわれる膿の溜りを見つけることにも役立ちます。
4.クローン病と診断されたら?
クローン病は、経過中に症状が悪くなったり改善したりと再燃を繰り返すことが特徴です。残念ですが、クローン病を完治させる治療法は、現時点ではありません。
治療の目的は、患者さんが通常の日常生活を送れるように炎症をコントロールすることが大切です。炎症の悪化を未然に防いで、病状とうまく付き合っていくことが大切です。薬物療法、栄養療法、外科療法をうまく組み合わせて、栄養状態を保ち、症状を抑えることが可能です。
5.クローン病に対する外科手術
クローン病は、基本的には内科で治療します。しかし、栄養療法や抗TNF-α製剤・免疫調整役などの薬剤を使用しても、内科的な治療では炎症のコントロールできない場合があります。
以下のような場合、外科手術を行います。クローン病と診断されて、手術を必要とする患者さんの割合は、発症後5年で30%、10年で70%前後と報告されています。
【 手術を急ぐ場合 】
穿孔,大量出血,癌合併,内科治療で改善しない腸閉塞(中毒性巨大結腸症),膿瘍
【 緊急ではないが手術をした方が良いとき 】
難治性狭窄・瘻孔形成、内科的な治療が効かない場合、難治性の腸管外合併症(発育障害,壊疽性膿皮症など)、難治性肛門病変
6.手術の方針
病変の切除による通過障害の解除や炎症のコントロールが第一目標ですが、切除は必要最小限とし,腸管の栄養吸収機能を維持することにも細心の注意を払っています。
狭窄が短い場合には、腸管切除を避ける形成術という方法を行っています。また,長期にわたり病変の再燃を防ぎ,再手術を回避することも大切です。
2010年より当科で採用しているKono-S吻合法では,変形を来たしにくい大きな吻合口をつくるため、術後の内視鏡検査に支障がなく、中長期の再手術率が低いことが利点です。
初回手術例を中心に腹腔鏡補助下手術も積極的に導入しています。
この手術法の利点として、手術創が小さく術後早期の疼痛が軽い、腸管運動の回復が早い、術後の癒着が起こりにくい,などがあるとされています。
1) 腸の切除は最小限にする
小腸は栄養吸収をする大事な腸管ですので、手術ではどうしても食事が通らない部分のみ処置します。
クローン病では潰瘍が何ヶ所もできることがあります。これらを全て切除していては,腸が短くなってしま
い、栄養の吸収が不十分になります。どうしても潰瘍が連なっている部分だけを切除して、極力小腸を残すこ
とが大切です。
2) 複雑な病変への対処
長い時間をかけて、腸の病変は変化してきます。「ろう孔」は,腸と腸だけでなく,腸から膀胱,腸から皮膚
など思わぬところへ伸びていることもあります。手術を行うにあたって、これらを見逃すことなく診断してお
くことが大切です。
3) 傷を小さくする
手術の一番の心配は傷の痛みです.手術の後は麻酔科と協力して痛みをとる治療に全力をあげます.傷もでき
るだけ小さくします.若い患者さんも多いので,美容上も傷は小さいほど望ましいのです.
7.肛門病変について
クローン病は、下痢が多いことや直腸に潰瘍ができるため、痔ろうが起きやすくなります。
クローン病の痔ろうは、一般的な痔ろうと比較して複雑化しやすく,再燃を繰り返しやすいのが特徴です。根治術により肛門括約筋に大きなダメージを与えてしまうと長期的に便失禁等の機能障害を来たすことがあるため、シートン法という括約筋温存術式を第一選択としています。
以下のような状態の時は、早めに肛門専門医を受診してください。
1) 繰り返し痛んだり熱が出る
感染を繰り返している状態です。膿の道が拡がっている可能性があります。
2) 便が出にくい,もしくは便が漏れる
括約筋に影響が出ています。
3) 女性で前方(膣側)に腫れが拡がっている
膣にろう孔ができると、治療成績がよくないのが現状です。膣にろう孔が出来る前に治療を行うことは、とて
も重要です.
8.クローン病の大腸癌・肛門部癌について
クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患と診断された患者さんは、大腸癌・肛門部の癌の検診のため、定期的な内視鏡検査をお勧めします。
海外からの報告では、クローン病の患者さんの大腸癌が発生する危険度(相対危険率)は、一般の方と比較し2.4倍、小腸癌は28倍と報告されています。患者さんの数が少ないため、不明な点もありますが、日本でも欧米と同程度の発生率という報告もあり、定期的な内視鏡検査をお勧めします。
直腸病変や痔瘻により狭窄をきたした場合には、検査自体痛みを伴うため、麻酔をかけた上での検査を行鵜ことも可能です。出血や肛門部の疼痛が悪化する場合や、今までなかった粘液性の分泌物に気付いた場合などは早めに受診してください。
9.クローン病の予後は?
クローン病の患者さんの予後は、その他の方と同程度と考えられます。
日本での報告では、クローン病患者さんの死亡率が高いという報告がありますが、健常人と同等とする報告もあります。確定的ではありませんが、クローン病は、生命予後に大きな影響を与える疾患ではないといえます。
10.最後に
クローン病は、厚生労働省の指定する難治性疾患の1つで、原因ははっきりと分かっていません。しかし、新薬の開発を含め、ここ数年で内科治療の成績はとてもよくなっています。
治療の原則は、患者さんが通常の日常生活を送れるように炎症をコントロールすることで、炎症の悪化を未然に防いで、病状とうまく付き合っていくことが大切です。治療は、内科的な治療がメインですが、外科療法をうまく組み合わせることで、症状を抑えることが可能です。
クローン病の可能性を疑われた場合には、診断、治療には専門的な治療が必要ですので、特に、炎症性腸疾患の外科治療については、クローン病の詳しい医師の診察を受け頂くことをお勧めいたします。