そけいヘルニアの治療はいま、腹腔鏡手術がメインです
1.そけいヘルニアとは?
お腹の中には腹膜という膜に包まれて腸や肝臓などの臓器が存在しています。
まだ生まれてくる前の胎児は腹膜の一部が左右ともに鼠径部(男の子で言えば陰嚢のあたり)に向かって伸びており(腹膜鞘状突起といいます)、これが自然に閉鎖して生まれてきます。
しかし、50人~100人に1人くらいの割合で、この腹膜鞘状突起が開いたまま生まれてくる子がいます。
お腹に力が加わったり、よく立って歩くようになるとその腹膜鞘状突起におなかの中にある臓器(小腸,大腸,大網という膜,女児であれば卵巣,卵管など)が飛び出してきます。臓器が飛び出すことをヘルニアを呼ぶため、この病気はそけいヘルニアと呼ばれています。
男児の右そけいヘルニア 右のそけい部~陰嚢にかけて大きく膨らんでいる。 内部に腸が入っているため、押さえるとぐしゅっという感触がして平らになる |
2. 膨らんだまま戻らないときはどうしたらいい?
そけいヘルニアで最も危険なのは、飛び出した臓器が戻らなくなり、血のめぐりが悪くなってしまうことです。これをそけいヘルニアの嵌頓といいます。
血流が悪くなった臓器は壊死してしまいます。腸管が壊死した場合には腸管の切除吻合が必要になります。
女児では卵巣が嵌頓して壊死してしまうこともあります。
嵌頓は1歳未満の赤ちゃんで多く、特に小さな赤ちゃんは自分で痛みを訴えることができないため、発見が遅れてしまうことがあります。
そけい部が腫れて全く戻らず、赤ちゃんが泣き止まないときは、時刻に関係なくすぐに小児の専門医に連絡してください。
多くの場合、専門の医師が手で押さえることで元に戻す(完納する)ことができます。どうしても戻らない場合は緊急の手術になります。
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女児の卵巣の嵌頓壊死 | 男児の腸管の嵌頓壊死 |
3. 治療(手術)
そけいヘルニアは自然と治癒する可能性は非常に低いため、手術による治療が必要です。手術は専門的には難しい側面が多く,小児専門施設での治療が不可欠です。
小児そけいヘルニアに対しでは、今まではそけい部を切開して、原因となるヘルニアの袋(腹膜鞘状突起)の根本を縛る手術が行われてきました。(Potts法)
しかし最近では腹腔鏡手術が発達したことでそけい管を切らずに袋の根元を縛れるようになりました。(LPEC法)
腹腔鏡下そけいヘルニア根治術
糸を通した専用の針で腹膜の袋の根元を縛って閉鎖する。
腹腔鏡手術は
・特に男児に対して精管の周囲を大きくはがさないため侵襲が少ない
・創部の箇所は複数だが非常に小さいため目立たない(傷がきれい)
・反対側にもヘルニアがあるかどうかのチェックができ、同時に手術できるため、後になって反対側のヘルニアが出て再手術になる危険が非常に低い
という多くの利点があります。
反対側は閉じている | 反対側もヘルニアあり |
現在日本全国ではそけいヘルニアの児の約半数に腹腔鏡手術が導入されており、広島大学病院では広島県内で唯一、男児にも女児にも腹腔鏡手術を標準術式として取り入れています。
4. 小児そけいヘルニアの類縁疾患
小児そけいヘルニアの類縁疾患に、陰嚢水腫や精索水腫、ヌック管水腫(女児の水腫)があります。緊急を要する疾患ではありませんが、そけいヘルニアと似た疾患であり、自然治癒しない場合にはそけいヘルニアと同様の手術が必要です。