膵がん・胆道がんに対するゲノム医療の現状
膵がん・胆道がんに対する遺伝子診断・治療(がんゲノム医療)が近年注目されています。がんゲノム医療では、手術や検査で採取されたがん組織から遺伝子を抽出して、多くの遺伝子の変化を調べる「がん遺伝子パネル検査」という検査を行い、遺伝子の変化に関するデータが得られます。遺伝子パネル検査は、2019年に保険収載され、日常診療で行われていますが、簡易で低侵襲性の血漿を用いた検査(リキッドバイオプシー)への期待も高まっています。
当院では、遺伝子診療科を中心としてがん遺伝子パネル検査を行っています。この遺伝子解析結果をもとに、エキスパートパネルと呼ばれる多職種の専門家からなるカンファレンスにて、患者さん一人一人に最適な治療薬や治験・臨床試験を検討しています。検査から解析・診断までの費用は、外来初診料で2880円(3割負担で860円)、組織検体検査料・説明料として約8万円(3割負担で2万4千円)、遺伝子解析料・説明料として約50万円(3割負担で約15万円)となります。
膵がん
現在、多くの膵がんには共通する4つの遺伝子変異(KRAS, TP53, CDKN2, SMAD4)がありますが、近年KRASをターゲットとする分子標的薬が開発されています。また、他のがんに発現している遺伝子変異(ALK, NTRK, ROS, RET, BRAF, FGFR, EGFR, BRCAなど)も多数発見されています。現在、膵がんに対して承認されている分子標的薬・免疫チェックポイント阻害剤は、4剤となっています(BRCA: オラパリブ、NTRK: ラロトレクチニブ・エヌトレクチニブ、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-high):ペンブロリズマブ)。
1. オラパリブ:BRCA遺伝子変異は、膵がん患者さんの5%程度1)に検出されます。オラパリブは、BRCA遺伝子変異を有する治癒切除不能な膵がんに対し、プラチナ製剤を含む化学療法後の維持療法として、2020年12月に承認されています。薬価5.185.1円/150mg・錠, 600mg/日.
2. ラロトレクチニブ・エヌトレクチニブ:NTRK融合遺伝子は、膵がん患者さんの0.4%程度2)に検出されます。ラロトレクチニブ・エヌトレクチニブは、NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がんに対して、初回治療も含めて、2019年に承認されています。薬価9.889.9円/200mg・錠, 600mg/日.
3. ペンブロリズマブ:高頻度マイクロサテライト不安定性は、膵がん患者さんの1-2%程度3)に検出されます。当科での膵がん切除標本における免疫染色結果4)からも、MSI-Highは1.3%に検出されました。ペムブロリズマブは、化学療法後に増悪した進行・再発のMSI-Highを有する固形がんに対して、2018年に承認されています。薬価214.498円/100mg, 200mg/回, 3週毎.
胆道がん
胆道がんに対しても遺伝子変異(PTEN, CDKN2A, KRAS, ERBB2, FGFR2など)が報告されています。現在、胆道がんに対して承認されている分子標的薬・免疫チェックポイント阻害剤は、2剤となっています(FGFR: ペミガチニブ、MSI-H:ペンブロリズマブ)。
1. ペミガチニブ:FGFR2遺伝子変異は、胆道がん(肝内胆管がん)患者さんの5-6%程度5)に検出されます。ペミガチニブは、がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道がんに対し、初の分子標的治療薬として、2021年6月に承認されています。薬価25.631.2円/4.5mg・錠, 13.5mg/日. 2週投与1週休薬。
2. ペンブロリズマブ:高頻度マイクロサテライト不安定性は、胆道がん患者さんの2%程度6)に検出されます。ペムブロリズマブは、膵癌同様に、化学療法後に増悪した進行・再発のMSI-High固形がんに対して承認されています。薬価214.498円/100mg, 200mg/回, 3週毎.
私たちは、”がんゲノム医療” を通じて、膵がん・胆道がん治療のさらなる可能性を追究しています。
不明な点がございましたらお気軽にご相談ください。
参考文献
1) Golan T, et al. Maintenance Olaparib for Germline BRCA-Mutated Metastatic Pancreatic Cancer. N Eng J Med. 2019;381:317-327.
2) Doebele RC et al. Entrectinib in patients with advanced or metastatic NTRK fusion positive solid tumours: integrated analysis of three phase 1–2 trials. Lancet Oncol. 2020;2:271-282.
3) Le DT, et al. Mismatch-repair deficiency predicts response of solid tumors to PD-1 blockade. Science. 2017;357:409-413.
4) Otsuka H, et al. Immunohistological evaluation of mismatch repair deficiency in pancreatic ductal adenocarcinoma treated with surgical resection. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2020;27:421-428.
5) Efficacy and Safety of Pemigatinib in Subjects With Advanced/Metastatic or Surgically Unresectable Cholangiocarcinoma Who Failed Previous Therapy - (FIGHT-202)
6) Le DT, et al. Mismatch-repair deficiency predicts response of solid tumors to PD-1 blockade. Science. 2017;357:409-413.