大動脈ステントグラフト治療のお話
−動脈瘤って何? Q and A−
広島大学病院で大動脈ステントグラフト治療を本格的に開始
2011年4月から、放射線科血管内治療部と循環器内科と麻酔科の協力体制のもと、大動脈瘤に対するステントグラフト治療が本格的に実施できる体制になりました。そこで、あらためて大動脈瘤について説明させていただきます。
はじめに
有名な方では、俳優の藤田まことさんは腹部大動脈瘤の破裂で突然死されました。その他に司馬遼太郎さんやアインシュタインさんなどが同じ病気で亡くなっています。動脈瘤は破裂するまではほとんど症状がなく、ある日突然破裂し死に至る非常に恐ろしい病気です。
最近は、超音波エコー検査やCT/MRI検査などで偶然発見されことが多くなっています。
正常な大動脈の直径は胸部で3cm、腹部で2cm程度です。1.5倍以上になると動脈瘤と診断されます、
治療の基本は血圧管理です。血圧が高かったり変動が大きかったりすると破裂の危険性は高くなります。減塩食をはじめとした生活習慣を改善し、お薬による血圧管理も重要になりますので、かかりつけ医や循環器・内科医にご相談ください。ただし、いったん大きくなった動脈瘤が小さくなることはなく、大きくならないようにするために血圧管理が重要です。根治には外科的な治療が必要です。
手術適応は、大きさを第一に形状や年齢・合併症など総合的に判断します。
手術方法は、「人工血管置換術」と「ステントグラフト術」の2つがあります。
診断基準
一般的に大動脈の太さが、胸部で4cm以上、腹部で3cm以上あれば大動脈瘤と診断されます。
治療基準
一般的に動脈瘤が胸部で5cm以上、腹部で4cm以上あれば、破裂の危険性があり、手術適応の可能性があるので専門医(主に心臓血管外科)に相談すべきです。それ未満でも動脈瘤が大きくならないように高血圧やストレスなど過度の負担のかからないように、かかりつけ医や循環器内科医に相談すべきです。
半年から1年の間に大動脈が0.5cm以上大きくなるようなら、治療を考えた方が良いと言われています。
治療方法
1.保存的治療
血圧管理、生活習慣改善、ストレス軽減、寒冷刺激の回避などあり、かかりつけ医もしくは循環器専門医の指導に従ってください。
2.人工血管置換術治療
直接動脈瘤を切開して人工血管に置き換える治療です。危険性はある程度あり、一般的に定期手術の全国平均死亡率は腹部大動脈瘤で約1%、胸部大動脈瘤で約5〜10%程度です。
ただ、破裂後は手術に間に合わないことも多く、間に合っても緊急手術の死亡率は数十%あります。
3.ステントグラフト内挿術
高齢者の方やたくさんの持病を抱えている方にも負担の少ない治療を提供するために開発された治療です。
足の付け根に数cmの切開をつけて、カテーテルを使って血管内から人工血管を植え込む方法です。直接大動脈を縫う代わりに人工血管にステントが付いており、ステントの力で大動脈に固定する方法です。そのため、正常な大動脈の曲がりが強かったり大きかったりする部分や、頸部や腹部へ大切な動脈が分岐している部分には、このステントグラフトは困難とされていました。
しかし、最近ステントグラフトの改良や重要分枝にバイパスをしてステントグラフトを行う、いわゆるハイブリッド治療が可能となりステントグラフトの適応は拡大しています。
ただし、ステントグラフト治療の歴史は浅く、長期にわたり安全性が確保されている治療法であるかどうか疑問な側面を持っています。
最大の原因は、エンドリークと言って、ステントグラフトの端から血液が漏れ、動脈瘤の中に血流が再開通することです。そのため長年にわたり、CT検査などでエンドリークがないかどうか確認する必要があります。
そのことをしっかり考慮に入れて、医師と患者がしっかりと相談したうえで治療方針を決める必要があります。
外来診察のご案内
広島大学病院心臓血管外科では、外来診察を毎週火曜日・木曜日の午前に開設し直接外来受診ができます。
また、病診連携室を通して、ご都合の良い時間に外来予約もできます。また、セカンドオピニオン外来も開設しており気軽に相談できる体制にあります。
直接生命の危険性のある大動脈瘤であるだけに、しっかり相談し、より快適で安心して生活が送れるよう、われわれと一緒に考えて行きましょう。
大動脈瘤Q&A
Q.動脈瘤が小さくなる薬はありますか?
A.残念ながら今のところ小さくする特効薬はございません。やはり血圧管理が最も重要です。
Q.動脈瘤があります。日頃どれくらいの血圧がよいのでしょうか?
A.動脈瘤をお持ちの方の血圧管理は厳重に行う必要があります。高血圧ガイドラインでも高リスクに相当し、収縮期血圧(いわゆる上の血圧)は130以下に管理する必要があります。
Q.動脈瘤があります。運動はしてよいのでしょうか?
A.主治医の先生から安定している動脈瘤で手術の必要は今のところないと言われている方でしたら、普段通りの運動は全く問題ありません。ただし、過度のストレスがかかる運動は控えるべきです。
また、手術を勧められている方の場合はゆっくり歩行する程度の軽度の運動で留めておくことをお勧めします。
動脈瘤の部位に痛みを伴う場合や血圧が非常に高い場合は運動を中止し、主治医に相談してください。
Q.動脈瘤の手術をしないと破裂すると言われたのですが、まったく症状がありません。
ほんとうに手術をしないといけませんか?
A.手術を受けるのは患者さん自身です。したがって、手術を受けるかどうかを最終的に決定するのは患者さん自身とそのご家族のかたです。破裂の危険性と手術の危険性を十分に理解されて、主治医の先生としっかり相談された後、手術の是非を決めてはいかがでしょうか?
Q.頸部の近くの弓部大動脈に胸部大動脈瘤があるといわれたのですが、持病が多く、近くの先生に手術は無理といわれました。ステント治療はできますか?
A.まずCT画像で動脈瘤の性状をみてからの判断になります。
写真で破裂の危険性が高い場合は手術を考えます。もし、手術が必要と判断した場合、大動脈の性状(瘤と瘤以外の)と持病の程度によってステントグラフト治療の適応を判断します。