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【膵臓の病気】膵嚢胞性腫瘍とは? 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)について

 

 膵嚢胞性腫瘍とは?

 

 膵嚢胞性疾患は、膵臓にできる嚢胞(ふくろ状の)の形態をとる腫瘍の総称で、治療の必要のない良性の腫瘍や炎症性疾患もあれば、悪性リスクのある腫瘍もあり、いくつかの異なった疾患をまとめた疾患概念です。

 近年、膵嚢胞性腫瘍と診断される機会は増加傾向にあります。全人口の約2~3%の人が、膵嚢胞性腫瘍を合併しているという報告もあり、決してまれな病気ではありません。80歳以上では、約8~9%と合併頻度は高く、年齢とともに増加することも特徴です。

 最近は、検診で偶然発見される無症状の患者さんも多く、当院を受診される患者さんの約7~8割が無症状です。

 

 膵嚢胞性腫瘍の中でも、時間経過とともに段階的に悪性化を来す、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は、「通常の膵癌」とよく対比され、悪性化の前段階で発見・治療が可能な「治癒可能な膵癌」として注目されています。どのような治療を行うのかは、腫瘍により異なりますので、まずは、精密検査を受けていただくことが大切です。

 

 【 代表的な膵嚢胞性疾患 】

  良性疾患

   ・仮性嚢胞

   ・漿液性嚢胞性腫瘍(SCN)

 

  悪性リスクのある腫瘍(切除の対象)

   ・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

   ・粘液産生膵腫瘍(MCN)

   ・膵神経内分泌腫瘍(P-NET)

   ・Solid pseudopapillary neoplasm(SPN)

 

 

 膵管内乳粘液性腫瘍(IPMN)とは?

 

 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は、膵管上皮から発生する腫瘍で、肉眼的に「イクラ様」といわれる乳頭状の発育形態を示し、豊富な粘液を分泌することが特徴です。

 大腸ポリープと同じように、最初は、良性の小さな腫瘍として発生し、その後、時間を経て次第に大きくなり、最終的には浸潤癌になることが知られています。

 IPMNは、浸潤癌に至る前に診断・治療できれば、「治癒できる膵癌」として注目されています。

 

 

 どのようなIPMNが癌になりやすいのか?

 

 膵管は、小さな膵管が次第に合流し、主膵管といわれる大きな膵管に合流し、十二指腸乳頭部に開口します。膵実質で分泌されたアミラーゼやリパーゼなどの膵酵素(消化酵素)を消化管内に分泌しています。

 

IPMNシェーマ.jpg

 IPMNは、末梢の小さな膵管から、主膵管と呼ばれる比較的太い膵管まで、すべての膵管上皮から発生しうる腫瘍です。特徴的として、粘液を産生し膵管を閉塞したり、粘液を貯め込んで嚢胞状の「ブドウの房」とたとえられる形態を示します。嚢胞内部のポリープ様の腫瘤や膵管の拡張の所見は、悪性を示す重要なサインといわれています。

 

 術前の画像検査では、腫瘍が存在する部位によって「主膵管型」と「分枝膵管型」、その両者の間に発生した「混合型」に分けられます。

 私たちのグループでは、これまでに180名の患者さんの手術を施行しています(2015年7月現在)。それぞれ、3分の1の患者さんが、「主膵管型」「混合型」「分枝膵管型」と診断されています。

 

 主膵管への進展は、悪性化の重要な指標とされていますが、画像検査で主膵管径が1cmを超える「主膵管型」の場合、約60~70%が浸潤癌であることが分かっています。逆に、「分枝型」といわれる主膵管への進展がない場合は、大部分の患者さんは、治療が必要のない良性の病変で、悪性の所見がなければ(嚢胞径3cm未満、腫瘤がないなど)、経過観察を行うこともあります。実際に、当科で治療を行った患者さんには、ガイドラインに示されている悪性リスクがない場合には、浸潤癌はありませんでした。

 

 IPMNの原因は、現在のところはっきりしていません。通常の膵癌で認められる遺伝子の異常が報告されていますが、詳細ははっきりしていません。慢性膵炎、アルコールの摂取、喫煙、肥満、膵疾患の家族歴などは、IPMN発生リスクであるということが分かっています。

 

 

 IPMNの頻度は?

 

 最近は、検診で偶然発見される無症状の患者さんも多く、全人口の約2~3%の人が、膵嚢胞性腫瘍を合併しているという報告もあり、決してまれな病気ではありません。膵嚢胞性腫瘍の中でも、IPMNは、もっとも頻度の多い嚢胞性腫瘍で、「通常の膵癌」と並び代表的な膵疾患といえます。

 

 

 IPMNは膵癌や他臓器癌の合併頻度が高い

 

 IPMNがある人は、膵癌ができる危険性が高いことが知られています。当科で行ったIPMN切除患者さんのなかで、約12~13%の患者さんが「通常の膵癌」を合併していました。

 経過観察中の患者さんを含めますと、全国平均(4~8%)と同程度の約4%程度の頻度で、IPMNの経過観察後、切除を行った患者さんでは、年率で2%前後、5年間の累積で約12%程度と、高い膵癌の発生頻度でした。膵癌の発生をいち早く見つけるためにも、小さな分枝型の腫瘍でも定期的に検査を受けることが大切です。

 

 膵臓以外の他臓器に、腫瘍を合併する頻度が高いことも知られています。私たちの集計では、良性の腫瘍も含めると3割を超える患者さんに他臓器の腫瘍の合併を認めました。一方で、他臓器腫瘍は必ずしも合併しやすいとは言えないという報告もあります。結論は出ていませんが、IPMNと診断された場合、CT検査による全身の検索に加え、胃や大腸の内視鏡検査を併せて行うことをお勧めします。

 

 

 IPMNの症状は?

 

 IPMNは、粘液を産生することが特徴ですが、その粘液は主膵管の閉塞を来し、急性膵炎の原因となることがあります。また、悪性の場合、腫瘍による胆管の圧排により黄疸を認めたり、「通常の膵癌」と同様に、腹痛・嘔吐・体重減少などの消化器症状を生じることもあります。

 しかし、症状がないことも多く、健康診断の腹部超音波検査や他の理由で撮影したCT検査などの画像検査で偶然見つかることもあります。実際、手術を受けられた患者さんの約7~8割の方が無症状でした。

 また、IPMNに限ったことではありませんが、糖尿病と診断された場合や、糖尿病のコントロールが悪化する場合には、膵臓の精密検査をお勧めいたします。

 

 

 膵嚢胞性疾患に対する検査は?

 

 IPMNをはじめとする、膵嚢胞性腫瘍の疑いがある場合、以下のような複数の画像検査、組織検査を併せて行い、総合的に判断し治療方針を決定いたします。

 

 ・CT検査 

 近年、multi-detector CT(MDCT)の発達により,数mm単位で膵臓の微細な構造まで検出できるようになり、必須の検査です。特に、造影剤を注射して撮影するCT検査(dynamic CT)では、膵腫瘍の大きさやひろがり、悪性所見などの有無を調べることが可能です。

 

  Branch IPMN_CT水平断.jpg   Branch IPMN_CT冠状断.jpg

 

                 腹部造影CT検査 「分枝型」IPMN

 膵頭部に「ブドウの房」と、たとえられる多房性の嚢胞性腫瘍を認めます(→)。最近のmultiditector CT

検査では、色々な角度から膵病変の評価が可能で(左:水平断、右:冠状断)、膵嚢胞性疾患には欠かすこと

のできない検査法です。

 

                                       Main IPMN_CT.jpg

 

                 腹部造影CT検査 「主膵管型」IPMN

 膵頭部から膵体部に至るまで膵の全長にわたり、主膵管の著明な拡張(主膵管径2cm)を認めます。主膵管内に腫瘤影も伴っており(→)、典型的な「主膵管型」IPMNです。

 

 

 ・MRI/MRCP(MR胆管膵管撮影)検査 

 造影剤を使用せずに、膵管や胆管を特に強調して描出することが可能で、膵管拡張の程度や嚢胞性腫瘍との位置関係を評価したり、膵管と交通のない嚢胞性病変を描出することが可能です。また、多方向、様々な厚さの画像情報が得られ、ガイドラインでも、経過観察の際に施行すべき検査方法として位置付けられています。

 

  Branch IPMN_MRCP.jpg   Main IPMN_MRCP.jpg

 

                MRI/MRCP(MR胆管膵管撮影)検査

 左は、膵頭部に「ブドウの房」と、たとえられる多房性の嚢胞性腫瘍を認める「分枝型」IPMNです。右は、主膵管径2cmと拡張を認める「主膵管型」IPMNです。MRCPの特徴として、造影剤を使用せずに、膵嚢胞、主膵管の評価が可能で、国際診療ガイドラインでも、推奨されている検査方法です

 

 

 ・超音波内視鏡検査(EUS) 

 小さな病変の描出が可能で、膵嚢胞性病変の鑑別に欠くことのできない有用な検査です。胃カメラの先端に超音波装置が装備されており、患者さんは内視鏡(胃カメラ)と同じ要領で、口からファイバーを内服していただきます。胃や十二指腸の壁を通して、膵臓、胆管に異常がないかエコー検査を行います。場合によっては、腫瘍組織を一部採取したり、内容物を吸引したりすることも可能です。

 

  参考 超音波内視鏡検査(EUS) 説明文書

 

Branch IPMN_EUS.jpg

                    超音波内視鏡検査(EUS)

 胃カメラの先端に装着された超音波(エコー)装置で、腫瘍の近傍から嚢胞内の結節・腫瘤の有無の描出が可能です。場合によっては、エコーをガイドに腫瘍組織を一部採取する生検を行ったり、内容物を吸引したりすることも可能です。

 

 

 ・内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP) 

 ERCPは、内視鏡を使って胆管・膵管を造影する検査です。悪性化の懸念がある場合、入院してさらに詳しい検査を行います。口から十二指腸まで内視鏡(胃カメラ)を入れ、その先端から膵管・胆管の中にカテーテル(細い管)を挿入します。カテーテルから造影剤を入れて、膵管や胆管のX線写真をとります。ERCP検査では、スコープを利用して膵管内の内視鏡検査(膵管鏡)や管腔内超音波という膵管の中にエコーカテーテルを挿入した特殊な検査を行い、病変の広がりや形態を観察することがあります。膵液を採取して細胞の悪性度の判定することも可能です。

 

  参考 内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)  説明文書

 

  Branch IPMN_ERCP.jpg   Main IPMN_ERCP.jpg

 

                 内視鏡下胆管膵管造影検査(ERCP)

 左は、膵頭部主膵管とつながった嚢胞性の病変を認めます。カテーテルの先端から細胞を採取したり、膵管内にステントと呼ばれるチューブを留置することも可能です。

 右は、主膵管径2cmと拡張を認める「主膵管型」IPMNです。膵頭体部に狭窄を認め、その尾側の主膵管が著明に拡張しています。

 ERCPの特徴として、膵管胆管を直接造影することで、より詳細な膵管の評価が可能です。また、細胞を採取したり、治療のためのチューブを留置することも可能です。

 

IPMN_十二指腸乳頭.jpg                   十二指腸乳頭部から粘液の排出

 内視鏡下胆管膵管造影検査(ERCP)による、十二指腸乳頭部の観察が可能です。十二指腸乳頭部(膵管の十二指腸への出口)から粘液の排出を認め、IPMNの典型的な所見です。

 

pancreatocopy1.jpg

   主膵管内に乳頭状に増殖するIPMN   

 内視鏡下胆管膵管造影検査(ERCP)と同時に、細径のファイバースコープを使用し、主膵管内の様子を膵管鏡というカメラで観察することが可能です。主膵管内に乳頭状に増殖するIPMNを認めます。

 

 

 ・FDG-PET(陽電子放出断層撮影)検査 

 放射能を含む検査薬を点滴で人体に投与することで、全身の細胞のうち、がん細胞だけに取り込まれた放射線を特殊なカメラでとらえて画像化します。PET検査では、全身を一度に調べることができ、また、CTやMRIなどの形態の異常をとらえる検査に対し、PET検査では、ブドウ糖代謝などの機能から異常を検出します。がんの可能性が疑われながら他の検査で病巣が発見できない“原発不明癌”の診断や、がんの転移・再発の有無を調べるのに有用な検査です。

 

Main IPMN_PET.jpg

                 PDG-PET(陽電子放出断層撮影)検査

 「主膵管型」IPMNのPET検査。拡張した主膵管に一致して、FDGの高い集積を認め、悪性の可能性が高いことが分かります。膵以外の全身の臓器への転移、同時に発生している他臓器の癌のスクリーニングにも有効です。

 

 上記、画像検査のほかにも、糖尿病の有無、慢性膵炎の既往、アルコールの摂取、喫煙の有無、膵疾患の家族歴などのリスク因子は診断・治療の参考になります。

 

 

 IPMNに対する治療は?

 

 IPMNの治療方針は、原則的に国際膵臓学会で作成された国際診療ガイドラインに従って行っています。

 具体的な診断・治療方針の決定には、専門的な知識、技術が必要ですので治療経験の豊富な専門医を受診されることが必要です。

 

 主膵管の拡張の程度(1cm以上)や嚢胞内の腫瘤影などが、治療方針の決定に重要な指標となっています。その他、症状の有無や腫瘍マーカー(CA19-9, DUPAN-2, SPAN-1)、患者さんの年齢・全身状態、膵疾患の家族歴など、総合的に判断し、治療方針を決定しています。

 

IPMNに対する手術療法

 IPMNの治療は、外科的な手術になります。術前検査にて悪性の可能性があると判断した場合、手術を行うこととなります。比較的大きな手術となるため患者さんの年齢や持病などの背景が考慮されます。

 「主膵管型」のIPMNと診断された場合には、前述のように癌化している可能性が高いため外科手術が推奨されます。私たちの集計では、1cmを超える主膵管の拡張を認めた場合、60~70%が浸潤癌でした。

 「分枝型」のIPMNの場合は、嚢胞の大きさや主膵管の太さ、結節腫瘤の有無や随伴症状など癌化が疑われる所見に応じて、手術するか、定期的な検査により経過観察するかを決定します。

 

 手術方法は、「通常型の膵癌」と同様に、リンパ節郭清を含めた膵切除術を施行します。悪性で周囲への浸潤、リンパ節への転移の可能性を考慮し、基本的には、縮小手術(リンパ節郭清を行わない膵切除・脾臓温存の膵体尾部切除)・腹腔鏡下手術は行わない方針としています。

 

 【 手術の絶対的な適応 】

   ・主膵管径が1cm以上

   ・黄疸や膵炎などの症状

   ・造影される(血流のある)結節(腫瘤)の存在

 

IPMNに対する化学療法

 「通常の膵癌」と同様に、化学療法を行う場合があります。

 特に、肝臓や肺などの遠隔臓器に転移を認め切除困難と判断した場合は、「通常の膵癌」に準じた抗癌剤が治療のメインとなります。IPMNの手術後の化学療法については、有効性についてはいまだ定まっていませんが、浸潤癌であると診断した場合、化学療法を行うことをお勧めしています。

 

 

IPMNの経過観察

 IPMNの中でも、特に、主膵管への進展がなく、腫瘤がはっきりしない「分枝型」のIPMNは、悪性の可能性が低く、経過観察をすることがあります。具体的な、経過観察方法は、個々の患者さんに合わせ決定しますが、CT検査やMRI検査を定期的に行っていきます。

 

 

 当科の治療成績

 

 2015年7月までに、当科では約180人の方が外科手術を受けられました。

 2010年以降の5年間は、経過観察の後に切除を行った患者さんが、約3分の1を占め、経過観察の患者さんが増えています。

 「通常の膵癌」と比較し、IPMNの切除後の予後は良好で、5年生存率(5年間生存されている患者さんの割合)は、IPMN浸潤癌の場合、70%を超えています。

 また、IPMNのある人は、膵癌ができる危険性が高いことが知られていますが、当科で切除を行った患者さんの約12~13%の患者さんが膵癌を合併していました。経過観察中の患者さんを含めますと、全国平均(4~8%)と同程度の約4%の頻度で、一般的な膵癌の発生頻度と比較すると高い頻度のため、小さな分枝型のIPMNでも定期的に検査を受けることが大切です。

 

 

 最後に

 

 IPMNは、「通常の膵癌」と並び、近年増加傾向で、注目されている膵腫瘍です。

 「通常の膵癌」と異なり、時間経過とともに悪性度を獲得していく多段階発癌を示す腫瘍で、早期の段階で診断・治療を行えば、唯一、根治できる「膵癌」です。経過観察が可能な「分枝型」「混合型」IPMNの存在も明らかになってきており、今後、さらなる検討が進むことが望まれます。

 

 IPMNをはじめとする膵嚢胞性疾患の診断・治療方針の決定は、専門的な知識、技術が必要ですので、「膵嚢胞」「IPMN」と疑われたら、治療経験豊富な専門施設を受診することをお勧めします。